1935年の創業以来、ゴム・ビニル製品の製造販売を手掛けてきた弘進ゴム株式会社。
90年の歴史を誇る同社は、時代の変化とともに代理店ビジネスの課題に直面しました。
しかし、そこで立ち止まることなく、新たな販路として自社ECサイトを構築。
EC戦略を通じてどのように顧客との関係を再構築し、ビジネスを拡大していくのか。
ACROVEとの連携による具体的な成果と、今後の展望に迫ります。
日本を代表する老舗メーカー
―まず、貴社についてご紹介をお願いいたします。
弘進ゴム 宍戸様:弘進ゴム株式会社は、1935年6月に創立し、今年でちょうど90周年を迎えます。
ゴム、ビニル製品の製造販売を行っており、事業の柱はシューズ・ウェア部門と化工品部門の2つです。

2017年には、経済産業省により「地域未来牽引企業」に選定いただきました。
―シューズ・ウェア部門は、長靴やレインウェアを取り扱っているのですね。
宍戸様:はい。今回自社ECサイトを構築したのは、その部門です。
化工品部門ではホースやシートなどを取り扱っており、こちらはBtoBでの販売が中心で、オンラインではモノタロウのようなECサービスを経由して販売しています。

「インジェクションブーツ」を世に広め、
働く人々の定番中の定番の長靴『ザクタス』も製造
―BtoB向けの商品でも、すでにEC販売に取り組まれていたのですね。
宍戸様:創業当初は、問屋さんへの販売が中心でした。販路を広げ始めたのはここ20年ほどで、それまではBtoB販売が主でした。当時は、小売店に商品が並ぶまで問屋や代理店を経由していましたが、お客様に最短ルートで商品を届けることを目指し、BtoC販売を開始しました。それが10年弱前のことです。
安定していた代理店ビジネスにかかる影
―90年の歴史の中で考えると、比較的最近のことなのですね。
宍戸様:そうですね。さらに、BtoCのEC販売に注力するため、通販営業部という単独部署が設立されたのは3年前のことです。
設立の背景としては、後継者不足などで代理店が減少し、代理店や卸売に依存している状態への懸念が高まっていました。会社としても売上を伸ばすため、弘進ゴム自体が努力する必要があると考え、ECでの直接販売に至りました。

代表商品『ザクタス』以外にも様々な商品を展開している
―そのような背景があったのですね。
宍戸様:あとは、お客様からBtoC販売についてのお問い合わせが増えてきたことも理由の一つです。
年間50件ほどのお問い合わせがあり、「お店で買えなかった」というお客様の声に応えたいという想いが強かったです。全国で販売していましたが商圏は営業所に依存していたため、近くの店に置いていない、という状況がどうしても生まれてしまっていました。
歴史があるからこそ難しい社内での決断
―それほど多くのお客様の声があったとはいえ、伝統ある会社で新しい販路を開拓するのは簡単ではなかったのではないでしょうか。
宍戸様:直接お客様に商品を提供するようになると、代理店さんや卸先さんの顧客と競合してしまうのではという懸念の声が社内から上がりました。代理店さんもECモールに直接出店することが多いので、メーカーである我々がライバルショップになってしまう可能性があります。
―卸先や代理店との関係性を考えると、難しい部分ですよね。
弘進ゴム 高橋様:まだ実際に競合した事例はありませんが、取引先との調整は必要だと考えています。
社内で自社ECサイト事業を推進する際は、小売店(量販店)が増加し代理店が減少している背景や、売上構成のデータを考慮し、現在の販売状況に基づいて判断を行ってきました。
BtoBでの売上が構成としては大きいものの、メーカーとしてお客様に直接いろいろな商品を届けたいという想いが、最終的には会社を動かしました。
―社内の調整もある中で、自社ECサイトの構築はどのようなプロセスで進められたのでしょうか。
宍戸様:自社ECサイト構築の構想自体は、1年弱ほど社内で議論していました。その後、具体的な内容や委託先の検討を1~2ヶ月ほどかけて行いました。
―構築ベンダーが数多くあるなかで、どのように情報収集をされたのですか?
宍戸様:主にインターネット検索でサイトを見て情報を集めました。ときには、すでに自社ECサイトを運営している同業メーカーに話を聞き、参考にできる点を探しながら、希望する内容のイメージを固めていきました。自社ECサイトに関するノウハウや知識が乏しかったため、地道に情報を集めていきました。
―ご検討の結果、弊社を選んでいただいた理由は何でしょうか?
宍戸様:ACROVEさんとの最初の接点は、Amazonの販売支援の提案でした。その後、自社ECサイト構築についてもご提案いただきました。
当初提案いただいていた内容と異なるのにもかかわらず、商談や検討段階で構築担当の方々も参加してくださり、信頼感を持てたことが決め手の一つです。社内にノウハウがない分、経験豊富な方と議論・相談しながら検討を進められる点が心強かったです。
ユーザーベネフィットをどうサイト上で表現するか
―構想を練るなかで、どのようなことを意識してサイトをつくったのでしょうか?
ACROVE 構築担当:購入金額に応じた会員ランク分けをご希望されていたため、そこを重点的に構築しました。
具体的には、会員ランクごとにセグメントを分けてメールを自動配信できる機能の実装です。会員ランク分けのルールの整理や、それらのルールのシステム上での表現方法、Shopify(カートシステム)での細かい設定が必要でした。
―ルールの整理は、ECモールや小売店での購入との兼ね合いもあり、注意が必要な部分ですね。
宍戸様:金額設定は苦労しました。多様な販路がある中で、自社ECサイトで買っていただくメリットをどう作るか悩みました。
結果、会員特典充実化の一環としてクーポンを発行することで、お客様には割引のメリットを提供でき、我々にとってはファン顧客になっていただけるという利点がある、というかたちで着地しました。

―自社ECサイトをオープンして半年ほど経ちますが、その後の状況はいかがでしょうか?
宍戸様:まだ半年ほどのため、ようやく運営が軌道に乗ってきた段階ですが、会員数は約50人/月のペースで増加しており、当初の目標を上回っています。他の販売チャネルからの乗り換えユーザーと、完全新規のユーザーがほぼ半々です。
―新規ユーザーも多いのですね。やはり、商品が手元に届くのを待ち望んでいた方が多かったのでしょうか。
宍戸様:メーカー直販という安心感も影響しているのかなと思っています。
自社ECサイトはただの販路の一つではない
それ以外の役割とは?
―目標を上回るペースとのことですが、自社ECサイトでは今後、どのようなことを目指されていますか?
宍戸様:売上を伸ばしていくことが目標です。通販営業部内でのECの売上は、前年度のシューズウェア全体の3%でした。今後は、これをいかに増やしていくかが目標です。
―ECでの売上はこれからということですね。そのような中でもECサイト構築に投資されたということは、社内の期待値も高いのではないでしょうか?
宍戸様:正直、高いです(笑)。
BtoBでは活動範囲が取引先のみに限られますが、自社ECサイトは直接より多くのユーザーに届けられる分、事業としての広がりが大きいと考えており、成長が期待されています。
―売上を伸ばすためには、自分たちで積極的に集客施策を行ったり、戦略を立てる必要があったりするのが自社ECサイトの特徴ですが、今後の集客やマーケティングではどのようなことを計画されていますか?
宍戸様:ユーザーに直接つながれる自社ECサイトのメリットを最大限活用する予定です。CRM施策を実施し、パーソナライズされたマーケティングやコミュニケーションを行い、ユーザーとの関係性を深め、自社ECサイトでのサービス品質を向上させたいです。
―そのあたりはサイトデザインの変更だけでなく、導線設計も必要な領域になりますね。
高橋様:簡単なサイト修正までは社内でできても、設計についてはプロの方のアドバイスが必要なため、今後も引き続きご支援をいただきたく思っています。
とくに、当初のご提案のときに、必ずしも広告だけが集客の方法というわけではないとのことで、ブランドコラボレーションやオフライン施策のご提案をいただきました。自社ECサイトという自分たちの持ち場を持てたので、そのような新たな試みも行っていきたいです。
―ACROVE自身がブランドを運営するメーカーでもあり、広告施策を巡る苦悩はよくわかっておりますので、そのような提案もご一緒にさせていただきました。
お話を伺っていると、自社ECサイトはただの販路の一つではなく、挑戦できる新たな環境として捉えていらっしゃるのですね。
宍戸様:そうですね。自社ECサイトはお客様の声を直接いただける貴重な場でもあるため、以前から実現したいと思っていた、お客様の声を商品開発に活かしていきたいです。
お客様の声を商品としてかたちにすることで、メーカーからユーザーへの一方的な関係ではなく、お客様からメーカーへの作用もいただけるようにし、より良い商品(価値)を提供していくことがメーカーとして必要だと考えています。

弘進ゴム株式会社 通販営業部 宍戸様